ロマ書 12:15                     仔犬売ります            マタイ伝 25:40

 

  ペット・ショップのガラス窓に<仔犬売ります>の広告を見たトム坊や、ゆっくり

と店内に入って行きました。  『いらっしゃい、坊や。  何が欲しいの?』と店主。

 

    『仔犬を売ってんですか?』  『ああ、そうだよ』  『いくらですか?』

              『そうさな〜っ、30ドルから50ドルってとこかな』

        トムはポッケットから全財産の2ドル75セントを取り出しました。

  『おじさん、仔犬を見せて下さい』  『ああ、いいとも。  レディー、来い』

 

  母犬のレディーがやって来ました。  その後を追って毛の塊のような可愛い仔犬が

5匹店主とトムの方にやって来ました。  5頭の後を追うように、更に1頭の仔犬が

ノソリノソリとやって来ます。  どうやら後脚が悪くて上手に歩けないようです。

 

  その仔犬を見た瞬間、トムはその仔犬の所にゆっくり近より、抱き上げました。

  『おじさん、この仔犬はいくらですか?』  『えっ、そいつ、そりゃ駄目だよ』

『どうして?』  『だってさ、そいつは股関節が悪くて売り物にならんのだよっ』

『そいつは生まれつき脚が悪いから、まともに歩けもしないし、跳ねることもできな

いんだよっ。  だから売りものにはならんのさ。  どうせ処分するってことさ』

 

                『おじさん、僕、この仔犬を欲しいんだけど…』

  『坊や、そいつは駄目だって言ってるだろう。  そいつは屑だ。  売れないよ』

  『そんなに欲しけりゃタダで呉れてやるよ、持って行きな。  こっちゃ助かる』

 

  『おじさん、そりゃないでしょう。  この仔犬だっていくらかの価値がある筈で

でしょう。  僕は今ここに2ドル75セントしか持っていないけど、残りは毎月、

毎月おじさんに50セントずつきちっと払うから、僕に正当な値段で売って下さい』

 

  『‥?‥?‥?  坊や、そいつは死ぬまで一生ず〜っと歩けないし、走れないし、

跳ねることもできないんだっておじさんが言ってるだろう。  わかんないのか?』

    『そいつは駄目な仔犬なんだよっ、他の仔犬にしたらどうだね、坊や!?』

 

  その時、トムは右側のズボンの裾をまくりあげ始めました。  スボンの下にトムの

弱々しい、曲がった右脚が出てきました。  脚の両側にはステンレス・スティールの

支えがしてありました。

 

  『おじさん、僕ねっ、これで結構じょうずに楽しく生きてるんだよ。  優しいパパ

もママもいるし、いいお友達もたくさんいるんだ。  第一、神さまが愛してくれてん

だよ。  この仔犬も、僕と一緒なら結構上手にやっていけると思うんだ。  この仔犬

は僕を必要としているし、可愛がってあげられると思うんだ。  この仔犬も可愛がっ

て貰えばきっと喜ぶよ、おじさん。  ねっ、そうでしょう。  だから売ってよっ』