2003年4月13  八ヶ嶽南麓  野村基之翻訳

 

 

    今は立派なお嬢さんに成長されたN嬢ですが、小学校3年生の頃の口癖の一つに

『家出する』というのがありました。  リュック・サックを背負っての「家出」の

到着点は近くの小学校でした。  今では懐かしい想い出の一つとなりました。

 

  同じようにアメリカでも小学低学年生の一人が、『神さまに会いに行って来る』と

言って準備を始めました。  『神さまのいらっしゃる所は遠いんだから…』と独りで

呟きながら、坊やは愛用の鞄にトゥィンキー Twinkies (長さ約8cm、幅約4cm

クリームをチョコレートで包んだお菓子)とルート・ビアーという清涼飲料水の缶を

数個詰め込みました。  『それじゃママ、行って来るね』と、勇んで出発しました。

 

  2、3ブロック歩いた所に公園がありました。  坊やが公園にさしかかったとき、

ベンチに坐っていた一人のお爺さんが鳩に餌を与え始めようとしていました。

  坊やは思わず足を止め、お爺さんの回りに群がり始めた鳩と、餌を撒き始めた老人

  に看取れてしまいました。  暫く立ちすくんでその光景にみとれていた坊やは、

やがてお爺さんのベンチの横にそう〜っと坐り込むのに成功しました。

 

  坊やは鞄の中からルート・ビアーの缶を取り出し、タブを引き上げてから飲み始め

ました。  その時にお爺さんの視線を感じました。  お爺さんはおなかが減っている

ように見えました。  坊やはトゥィンキーを取り出してお爺さんに手渡しました。

お爺さんは嬉しそうな顔をして受け取り、おいしそうに食べました。

 

  その時のお爺さんの笑顔がとても素晴らしかったので坊やはお爺さんの笑顔をもう

一度見たいと思い今度はルート・ビアーの缶を取り出してお爺さんに渡しました。

お爺さんは再びニッコリと微笑みました。  坊やも微笑みました。  こうして二人は

その日の午後を公園のベンチの上に坐ったままお互いに微笑みながら過ごしました。

然し二人は一言も言葉を交わすことはありませんでした。

 

  やがて辺りが薄暗くなり始め、坊やは家に戻らなければならないと気づきました。

ベンチから立ち上がって何歩か歩み始めましたが、ベンチに戻って来て、お爺さんに

大きなハグをしました。  お爺さんは坊やに最大の微笑みを送り返しました。

 

  坊やが自宅に戻って来た時、お母さんは息子の顔が輝いているのに気づきました。

『あら、坊や、今日はどこに行って来たの?  どうしてそんなに嬉しそうなの?』

  『僕?  それはね、僕は今日、神さまに出会って来たんだょ!』  『エッツ?』

お母さんが息子に説明を求めようとする前に、坊やが言いました。

『神さまってね、すげぇー嬉しそうな顔してね、でっけぇー顔で笑ってたんだ!』

 

  一方の老人も、『ドッコイショ』とベンチから立ち上がって、ゆっくりと自宅に

向かって歩き始めました。  自宅の戸を開けて中に入った瞬間、お婆さんがお爺さん

の顔が輝いているのに気がついて訊ねました。

 

  『オャッ、お爺さん、えらいご機嫌さんなこってすね。  何が一体全体あったので

すかい?』  『アアッ、それはじゃな、今日はじゃな、公園でな、神さまとご一緒に

トゥインキーを頂いてな、ルート・ビアーを一緒に飲んだっていうことなんじゃょ』

『エッツ?  いま何っておっしゃいましたかな?』

 

  その時、お爺さんの息子が仕事から帰って来ました。  お婆さんは、充分にわけの

  わからないお爺さんの話をかい摘んで息子に説明しようとしますと、お爺さんが

お婆さんをさえぎって言いました。  『神さまっていうのはだな、わっしが思って

いたよりも遥かに年が若いっていうことさ!』

 

      以上は半世紀前の赤貧留学時代の学友 George Fulda さんから同じく下級生の

Joyce Broyles さん経由で転送されて来た Meeting Godを翻訳したものです。  添付

されていたコメントには以下の勧めの言葉も記されてありました。

 

  小さな触れ合い、小さな優しい一言、小さな親切の業、聴き入る耳、心の籠った

褒め言葉の一片、小さな思い遣りの行為…  私たちはそれらが持っている力や価値を

忘れがちですが、その一つ一つが私たち自身の人生を、他の人の人生を変え得る力で

あることを常に覚えて置かなければなりません。